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長野地方裁判所 昭和28年(行)4号 判決

原告 小野商事合資会社

原告補助参加人 恩田林業有限会社

被告 長野営林局長

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は原告の負担とし補助参加によつて生じた分は補助参加人の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告が昭和二十八年五月三十日長野県西筑摩郡開田村に対しなした別紙の目録記載の五峯の国有林の売払行為はこれを取消す、被告は右国有林を原告に売り払うべし、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として

第一、被告は別紙目録記載の五筆の国有林につき、原告並に訴外開田村等より国有林野整備臨時借置法(以下整備法と略称する)による売払の申請を受けたのに対し、農林大臣の委任に基き、昭和二十八年五月三十日右国有林を整備法第一条第一項第一号に謂う「孤立した小団地の国有林野」あたるものと認め同条第二項の適用により右開田村を買受の優先順位にあるものとして同村に対し金九千三百万円を以て売払つた。

第二、しかしながら右売払行為は次の理由により違法の行政処分である、すなはち

(一)  整備法による国有林野の売払は同法第一条第一項によつて「当該国有林野を適正に経営することができると認められる者」に対してのみなし得るものであるが本件国有林の売払を受けた訴外開田村はその財政能力、従来における森林経営の実積、村当局者の行政能力等より推して、これを適正に経営することはできないものと認められる。そのことは、例えば(イ)同村は十数年前帝室林野局より百三十町歩余の御料林の払下を受けるや、いくばくもなく、該地上立木を訴外秋田木材株式会社に売却しその跡地を植林もせず放置したので、被告はやむなく、一旦払い下げた右林地に部分林を設定して官行造林を行い現在に及んでいること、(ロ)同村は昭和二十七年中村が九割五分の持分を有する同村大字萩ノ沢地籍所在の共有山林の立木を他の共有権者の承諾も得ずに訴外北越製紙株式会社に売却し、その売得金は悉く同年度の村の一般会計に繰り入れ費消し、その跡地はなんらの施業案も立てず荒廃するまゝに放任していること(ハ)同村はまた同村大字西野字栃洞地籍所在の訴外田沢秋蔵所有山林に造林の目的で地上権の設定を受けながらなんらの施業もしないこと(ニ)同村の近隣町村では既に数十年前より村又は部落が主体となつて森林組合を組織し、適切な森林経営を行つているのに対し開田村には従来かかる協同の組織がなく昭和二十七年に至り漸くかかる組合が組織されるに至つたが、これとても森林法の改正により義務的につくられたもので、なんら積極的に活動していないこと、(ホ)本件国有林の面積は合計七十三町歩余であるが森林経営に関する専門的見地よりすれば、一団地の面積が右の程度ではやや狭少に失し合理的な施業案の樹立に適しないことなどに徴して明かであり要するに開田村は財政的に貧弱で一般会計における収支の償いのみに汲々して森林経営の如き恒久的な事業を顧みる余裕がないものと断ぜざるを得ない。然るに被告は粗雑な調査によつてかかる事実を看過し、また同村より提出された本件国有林買受後の経営計画書のごときもその内容は杜撰極まるものであつたにも拘らずこれを以て同村の経営能力判定の資料に供し、前記売払をなしたものは、ひつきよう、売払の相手方の経営能力の判定を誤つたもので違法といはなくてはならない。

(二)  次に本件国有林はその北西側は原告が共有持分を有する開田村大字西野字中ノ又五千三百四十一番山林百九十一町四反四畝二十歩と、南側は同じく原告が共有持分を有する同所字モチノ沢五千三百三十九番山林十町五反及び原告所有の同所五千三百二十五番山林五反三畝九歩と、東側は原告所有の同所字高根五千三百二十二番原野九町五反、同所五千三百二十三番のイ、山林四町五反、同所同番のロ、山林四町三反及び同所同番のハ山林一町とそれぞれ、犬牙のごとく錯綜した境界線を以て隣接し、まさに整備法第一条第一項第三号の「民有林野との境界が入り組んでいるため経営に支障がある国有林野」に該当するものというべきであり、しかも、原告は林業経営を目的とする会社で森林経営の能力と経験を十分具えているのみならず、前記原告の所有乃至共有する林野に本件国有林を併せ合同施業を行うならば経営の合理化の促進されることは必定であるから、被告としては同法第一条第二項の優先順位に関する規定を適用する余地はなく、右国有林はこれを原告に売り払うのが国有林野整理の方針に適合する当然の措置であつたにも拘らず、かかる措置を採らずに右国有林を前記の如く同条第一項第一号の国有林野に該当するものとみなし、右優先順位に関する規定の適用により開田村に売り払つたのは、本件国有林野処分の事由を誤ると同時に売払の相手方の選択を誤つたもので右売払行為はこの点においても亦違法なものといはなくてはならない。

(三)  なお開田村に対する本件国有林の前記売払価額は被告の杜撰な評価によつて決定されたもので、この点も亦本件売払行為を違法ならしめるものである。

第三、よつて右売払行為の取消を求めるとともに本件国有林が本来原告に売り払はるべきであつたことは前段(二)項において述べた通りであるから被告に対し、あらためて右国有林を原告に売り払うことを求めるため本訴請求に及んだ次第である。

と陳述した(立証省略)。

被告指定代理人は本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本案前の抗弁として、

原告の取消を訴求する本件国有林の売払行為は抗告訴訟の対象となりうる行政処分ではなく、それは被告と開田村との間の私法上の売買契約に過ぎない。すなはち、整備法による国有林野の売払はすべて売払の相手方との売買契約の締結によつてなされるもので、この契約に基き当該国有林の所有権が移転し代金の支払がなされるのである。本件国有林の売払についてもかかる契約が締結されたものであることは勿論で、被告は整備法施行規則の定めるところに従い、同村と随意契約の方法により売買契約を締結し、双方合意で売買条件を特約をなし売買契約書も作成している。従つて本件売払行為が私法上の法律行為に属することは一点の疑もないところであるから、これを公権力の行使による行政処分であるとしてその取消を求める原告の請求は不適法として却下を免れない。また被告に対し本件国有林を原告に売り払うことを求める原告の請求は司法権の限界を超える事項について訴求するものであるからこれまた不適法として却下を免れない。

と陳べ、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中第一の事実は認める。右売払は適法になされたもので違法の点は毫も存しない。第二の(一)の事実中、訴外開田村が原告主張の頃帝室林野局より御料林(但しその面積は百十三町七反六畝二十五歩である)の払下を受けるや間もなくその土地立木をその主張の会社に売却したこと、現在右地上に原告主張の如く官行造林が行はれていること、同村が原告主張の頃その主張の山林地上立木を訴外北越製紙株式会社に売却し現在その跡地を放任していること、同村が原告主張の地籍にある訴外田沢秋蔵所有の山林の使用権を有すること、及び同村において昭和二十七年以来森林組合が組織されていることはこれを認めるが、その他の事実は争う。(イ)被告が帝室林野局より開田村に払下げた山林に官行造林を行うに至つたのは次の如き経緯によるものである。すなわち当時御料林所在の市町村に対しては毎年皇室より御下賜金が下附され、同村においても右御下賜金等を以て年々右地域に植林を行つてきたが終戦後の林政統一によつて御料林が国有林に編入され、従来の御下賜金制度が廃止されるや、これまで右制度の恩恵を浴していた附近の関係十六ケ町村は地元産業助長のため右制度に代る事業の実行を強く要望したところから被告は林野庁長官と協議の結果公有林野官行造林法により特殊な官行造林地を右関係十六ケ町村全部に設定することとなり、その一環として前記開田村所有地に官行造林を行うに至つたものである。それ故地上に官行造林が行はれているのは同村が原告主張のように右山林を植林もせずに放任したが為めではない。(ロ)同村が立木を北越製紙株式会社に売却した跡地を放任しているのは同村と右会社との売買契約により右地上立木の伐採搬出期間が昭和二十八年四月一日より昭和三十四年三月三十一日までと定められ現在その期間中にあるため同村としては施業案を立てるに由なく放任しておくほかないからであつて、そのことは同村の経営能力の如何とは関係のない事柄である。(ハ)同村が田沢秋蔵所有の山林の使用権を有するのは原告主張の如く地上権の設定契約によつたものではなく貸借契約によるもので、右契約の結ばれた大正二年当時同村では皇室よりの御下賜金を以て恩賜記念林を設定することを計画し適当な場所を探した結果右秋蔵先代の訴外田沢幸作よりその所有の前示山林十町歩を借り受けることとなつたもので、爾来同村はここに年々御下賜金を投じて檜を植林し、村民一同手入をつくしてきた結果現在は四十年生の優良な檜造林地となつている。(二)同村は昭和二十六年の森林法改正後逸早く改正法の趣旨に従い全村一本の森林組合を設立して活溌な活動を続け、組合員の出資額も郡内他村の組合では平均六十万円程度であるに対し同村の森林組合では百万円にも達し右組合の現在の活動状況は郡内十五ケ町村中五位を占め全県的にみても優良の部類に属する。(ホ)元来森林の施業案は当該林野の面積、林況、所在位置、施業を行う者の能力等の一切の主観的客観的状況を綜合検計して之に適応するように立案されるものであるから、単に面積の広狭のみによつて施業案の適否を云々することはあたらないのみならず、開田村が本件国有林の買受申請に際し提出した経営計画書の施業案に基いて他の村有林三百余町歩と併轄し綜合的な施業を行うならば、合理的経営は十分可能でその面積も自治体の経営面積としては適当なものといえる。以上の通り原告が開田村に経営能力がないとして挙げる事例は悉く事実に反するか事実を歪曲した原告独自の見解で首肯できないのみならず原告は被告の開田村に対する経営能力の調査が粗漏であり開田村の提出した前記経営計画書が杜撰であると批難するが右の批難も当らない。右経営計画書は同村の経営能力に適応した極めて適切なものであつたし被告は同村より本件国有林の買受申請を受けるや整備法施行手続第二条所定の事項につき慎重な調査を遂げたことは勿論でその結果によれば同村の村有林三百三十町九反二畝(但し公簿上の面積は二百十八町歩)は県下公有林全般より見れば優良の部に属し、荒廃している如き形跡は毫も認められないのみならず、同村住民の大半は農業、畜産業に従事し従つて農家戸数も総戸数五百五十二戸の内四百二十六戸を占め森林経営の人的要素にはことかかないものと判断されなお同村の財政状態も前記西筑摩郡下十五ケ町村中、中位を占め決して貧弱なものとは認められない。ところで整備法第一条第一項に所謂「適正に経営することができる」云々とは必ずしも高度の林業技術による模範的経営能力を要求しているものではなくその程度は国有林野の売払を受けたものにおいてこれを荒廃させることなく森林状態を保持してゆく意思と能力さえ有つていれば足るものと解するを相当とするところ開田村は僅かに百町歩に満たない本件国有林について右法案の要求する程度の経営能力を十分有つているものと断ずべきである。それ故被告が同村の経営能力の判定を誤つたとの原告の主張は失当である。

次に原告は本件国有林は整備法第一条第一項第三号の「民有林野との境界が入り組んでいるため経営に支障がある国有林野」に該当するから、被告が同条第一項第一号に所謂「孤立した小団地」と認めて開田村に売払つたのは違法であると主張するが本件国有林が「孤立した小団地」であることはその存在形態自体から明瞭であり、その地形も原告主張のような境界錯綜地であるとは云えないのみならず、原告が、昭和二十六年八月三日附を以て林野庁長官宛に提出した本件国有林売払の申請書によれば、その表題は「飛地及び同地上生立木払下願」と明記されその本文中「払下を願う要旨及び理由」の項には「右の三ツ森国有林(本件国有林のこと)は既に貴庁御調済の如く百町歩以内の飛地となつており云々」と記載され、従つて原告自身も本件国有林が「孤立した小団地」であることを自認したものである、なお、整備法が境界錯綜地を整理の対象としているのは残置される国有林の親団地自体の境界の錯綜を整理することが目的であつて本件国有林のよう形に孤立した存在形態の国有林はたとえその団地の形状が錯綜した地形であつても孤立団地として処理することが同法の根本原則であるから被告が右国有林を孤立した小団地として処理したことには何等の違法もない。なお原告は本件国有林の売払価額の評定が杜撰であつたから右売払は違法であると主張するが、被告は右国有林の売払に当つては整備法施行手続第五条に掲げる事項につき専門的技術的調査を遂げ、同条第五項による林野庁長官の定めた評価基準に従つてその価額を厳正公平に決定したのみならず、元来整備法による国有林野の売払価額の算定については同法上何等の基準も定められておらず、それは専ら売払を担当する行政庁の自由数量に委ねられているものであるから、違法の問題を生ずる余地はなく、ただその当否につき他の国有財産の処分におけると同様会計検査院の検査に対し責任を負うだけであるから本件国有林売買の当事者でもない原告の容喙すべき筋合ではない。

以上によつて被告のなした本件国有林の売払行為については、原告主張の如き違法の点は尠しもなくかえつてそれが適正になされたことが明かであるから右売払行為の取消を求める原告の請求は棄却すべきである。

と陳べた(立証省略)。

三、理  由

先ず本件有林の売持行為の取消を求める訴の適否について判断する。およそ行政事件訴訟特例法第二条の訴は行政庁の処分についてその取消、変更を求めるものであつて、行政庁の行為であつても行政処分でないものについてその取消変更を求めることは許されないから、原告の取消を求める本件売払行為が右にいわゆる行政処分に該当するかどうかについて按ずるに、整備法第一条による国有林野の売払交換等の行為は、権限を有する農林大臣若しくはその委任により右事務を処理する営林局長のなす法律行為として、行政庁のなす法的行為であることは勿論であるが、かかる行政庁の行為の法的性質が行政処分と謂いうるためには、右行為が公権力の行使としてなされるものでなくてはならないものと解すべきところ、右整理法並びにその附属法令たる同法施行規則の各規定について調べてみても、同法による国有林野の売払交換等に関する手続が例えば農地法若しくは旧自作農創設特別措置法による農地の買収売渡手続のように公権力の行使として行はれることを窺はしめるに足るような規定は全く見当らない。

かえつて整備法施行規則第三条第二項は右売払又は交換の契約書の作成に関し規定し、同規則第四条は右契約の成立時期について、同規則第十二条第二項は契約者死亡及び法人合併の場合の権利義務の承継について、整備法第三条は売払代金の延納の特約について、同第五条は国有林野法、国有財産法の適用についてそれぞれ規定している。これらの規定を通覧してみても整備法による国有林野の売払交換等の各行為は国の機関たる行政庁か右売払、交換の相手方と対等の立場にたつて双方の意思の合致により成立する契約によつて行はるべきものであることが明かで、その法律関係は要するに、国が経済的財産権の主体として私人と同様の立場に立ち、同じく私人として立場に立つ市町村等の地方公共団体、若しくはその他一般私人と金銭的価値の授受を目指して相対するところの法律関係、すなわち私法関係であつて、国家の公権力行使の関係ではなく、従つてかかる関係において行はれる前記売払又は交換の各行為は国有財産法による一般の国有財産の処分と同様に私法行為に属することを容易に観取することができる。

もつとも整備法第一条第一項によれば売払又は交換をなし得る国有林野は同項に列挙するものに限られ、また売払、交換の相手方も当該国有林野を適正に経営しうる者に制限され、また同条第二項によれば競願者ある場合一定の優先順位が定められているけれども、右のような制限は、国有林野が他の国有財産に比し公共的並に経済的見地からして特殊性を有することに鑑み濫りに売払、交換がなされたりその相手方の選択についても当該行政庁の恣意に亘つたりすることのないようにするためそのような制限を設け且つ特に訓令、通牒等に委せずに法律の規定を以て制限したまでであると解するのが相当であつて、右のような規定があるからといつて同法による国有林野等の売払、交換が一般の国有財産のそれとその法律的性質を異にするものとは認め難い。また右の売払、交換について契約締結の方式若しくは契約内容に関し、同法並びに同法施行規則、その他国有財産法会計法並にその附属法令等により一定の制限を受けることを免れないけれども、かかる拘束乃至制限があるからといつて右各行為の前示法的性質が左右されるものではないこともいうまでもない。

果してしからば、本件売払行為の取消を求める原告の訴は、前示の如く私法行為であるところの整備法に基く国有林の売払行為を行政処分であるとしてその取消しを求めるものであつて、行政事件訴訟特例法第二条の認める行政庁の処分の取消変更を求める訴とはいえないから、不適法として却下を免れない。

次に原告の被告に対し本件国有林の原告への売払を求める訴の適否について考えるに、整備法による国有林野の売払行為が行政処分でなく私法行為であることは前記認定のとおりであるけれども原告は本訴において右売払行為を行政処分であると主張して行政庁たる被告に対してその行政処分をなすべきことを命ずる裁判を求めるものであることは原告の主張自体によつて明かである。しかしながら行政庁に対し行政処分を為すべきことを命ずる裁判を求めることは憲法の定める三権分立の建てまえから許されないことは多言を用いずして明かなところであるから原告の右訴も亦不適法として却下を免れない。

叙上説示の通り原告の訴はいずれも本案について審理するまでもなく不適法であるから、これを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟第八十九条、第九十四条、第九十五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 伊藤顕信 今村三郎 市川郁雄)

(別紙目録省略)

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